グリースの性能の大部分は、実は増ちょう剤の種類によって決まります。耐熱性・耐水性・潤滑寿命のすべてが、ここで方向づけられると言っても過言ではありません。
この記事では、増ちょう剤とは何かという基礎から、主要な増ちょう剤の特性比較、設備条件に合った選定の考え方までを、現場目線でわかりやすく解説します。
増ちょう剤とは何か:グリース選定でつまずく原因
増ちょう剤の選定でつまずく多くの担当者には、共通する3つの理由があります。まずは「増ちょう剤がグリースの中で何をしているのか」という基本構造から押さえていきましょう。
原因①:グリースの3つの構成要素を理解できていない
グリースは、ただの「固いオイル」ではありません。明確な3つの構成要素から成り立っています。
| 構成要素 | 役割 | 含有比率の目安 |
|---|---|---|
| 基油(ベースオイル) | 実際の潤滑を担う油分 | 約70〜95% |
| 増ちょう剤 | 基油を保持し、半固体状にする骨格 | 約5〜25% |
| 添加剤 | 酸化防止・極圧性・防錆など性能付与 | 約0〜10% |
増ちょう剤は、たとえるならスポンジのような微細な繊維構造です。この繊維の網目の中に基油を保持することで、グリースは「流れ落ちずに潤滑面に留まる」性質を持ちます。つまり増ちょう剤の性質が、グリース全体の耐熱性・耐水性・寿命を決定づけているのです。
原因②:増ちょう剤の互換性に対する認識が薄い
現場でよくあるのが、「今までと同じ容器に違うメーカーのグリースを追加してしまった」「色が同じだから問題ないと思った」というケースです。しかし、増ちょう剤の種類が異なると、グリース同士の相性が悪くトラブルの原因となることがあります。
原因③:使用環境と増ちょう剤の相性を考慮していない
「高温の環境なのに汎用リチウムグリースを使い続けていた」「水のかかる現場で耐水性の低いグリースを選んでしまった」――こうしたミスマッチも、増ちょう剤の特性を理解していないことから生じます。
たとえば、ベアリングが120℃を超える環境で汎用リチウムグリース(耐熱限界約120℃)を使うと、増ちょう剤の繊維構造が破壊され、基油が分離して潤滑機能を失います。結果として焼き付きや異音、最悪の場合は設備停止につながります。
増ちょう剤の種類別の特性と選定ステップ
ここからは、主要な増ちょう剤3種類の特性を比較しながら、設備条件に応じた選定の進め方を解説します。
ステップ①:主要3種類の増ちょう剤の特性を把握する
工業用グリースで使われる増ちょう剤は数多くありますが、実務で押さえるべきは以下の3種類です。この3種類で、現場で出会うほとんどのケースに対応できます。
| 増ちょう剤 | 耐熱性(連続使用) | 耐水性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| リチウム石けん | 〜約120℃ | 良好 | 汎用ベアリング・一般機械 |
| リチウムコンプレックス | 〜約150℃ | 良好 | 高温ベアリング・自動車部品 |
| ウレア | 〜約180℃ | 良好 | 製鉄ロール・電動モーター・高温連続運転 |
このほか、ベントン(無機増ちょう剤)やPTFE(フッ素樹脂)系もありますが、特殊用途向けです。まずは上記3種類の違いを押さえれば、汎用設備の選定で迷うことは大幅に減ります。
ステップ②:使用条件の3つの軸から候補を絞る
増ちょう剤を選ぶ際は、以下の3軸で使用条件を整理します。
- 温度条件:常温なのか、80℃以上の高温なのか、120℃を超えるのか
- 水・湿気の有無:屋外・水冷環境・蒸気の多い場所か、屋内の乾燥環境か
- 荷重・回転条件:高荷重がかかるのか、高速回転なのか、低速重荷重なのか
たとえば高温・高荷重が想定される設備では、ウレアが第一候補になります。一方、「屋内の搬送コンベアの常温ベアリング」であれば、汎用リチウムで十分というケースも多くあります。中間的な条件、たとえば自動車部品の組立ラインで使用するベアリングなどでは、リチウムコンプレックスが選ばれることが一般的です。
ステップ③:鉱物油系と合成油系の違いを理解して最終決定する
増ちょう剤の種類を絞り込んだら、次に確認するのが基油の種類です。同じウレアグリースでも、鉱物油ベースと合成油ベースでは寿命やコストが大きく異なります。
| 基油の種類 | 耐熱性 | 低温流動性 | コスト | 適した用途 |
|---|---|---|---|---|
| 鉱物油 | 標準 | 標準 | 低 | 常温〜中温の一般用途 |
| 合成油(PAO) | 優れる | 優れる | 中〜高 | 高温・低温・長寿命要求 |
| 合成油(エステル) | 非常に優れる | 非常に優れる | 高 | 高温・難燃要求・特殊用途 |
ステップ④:切り替え時の手順と注意点を押さえる
増ちょう剤を変更してグリースを切り替える際は、必ず以下の手順を踏むことが重要です。
- 既存グリースをできる限り除去する(手作業またはフラッシング)
- 新グリースを少量補給して試運転し、異常がないか確認する
- 初回切り替え後は通常より短いインターバルで点検を行う
- 軟化・漏れ・温度上昇の兆候がないかをモニタリングする
近畿インペリアルの解決事例
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よくある質問(FAQ)
まとめ
- グリースは基油・増ちょう剤・添加剤の3要素で構成され、増ちょう剤が耐熱性・耐水性・寿命を左右する
- 実務で押さえるべき主要な増ちょう剤はリチウム石けん・リチウムコンプレックス・ウレアの3種類
- 選定は「温度・水分・荷重」の3軸で使用条件を整理してから候補を絞ることが重要
- 増ちょう剤の異なるグリースを混合すると軟化や分離が起こるケースがあるため、切り替え時は既存グリースを除去してから補給する
- 基油(鉱物油か合成油か)の選択も性能とコストに大きく影響するため、増ちょう剤とセットで検討する
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