使い分けの5つの判断基準
グリースとオイルの使い分けで迷ったとき、現場で役立つ判断基準を5つのステップで整理しました。設備仕様書や既存の潤滑管理表と照らし合わせながら確認してみてください。
判断基準①:設備メーカーの指定を最優先にする
まず確認すべきは設備の取扱説明書・仕様書です。メーカーが「グリース封入」「オイル循環式」と指定している場合、その指定が最優先です。独断でもう一方に変更すると、保証が失効するリスクや、設計外の潤滑状態になるリスクがあります。
注意:仕様書に指定がない場合は専門家に相談を
「指定なし」または「改造・流用設備」の場合は、設備の回転数・負荷・温度・環境条件を整理したうえで、潤滑剤の専門家に相談することをお勧めします。誤った判断がトラブルの原因になるケースがあります。
判断基準②:回転数と速度条件で選ぶ
軸受のdn値(軸径mm × 回転数rpm)が高い高速回転の設備では、グリースよりも潤滑油が適しています。グリースは高速条件下でかきまぜ抵抗(チャーニング)が大きくなり、発熱の原因になることがあります。
一般的な目安として、dn値が300,000以下であればグリース、それを超える場合はオイルミストや油浴・強制循環の潤滑油が適しているとされています。ただし設備条件によって異なるため、参考値として捉えてください。
ポイント:高速軸受にグリースを使うと
かきまぜ抵抗による異常発熱、グリースの軟化・流出、最終的には軸受焼き付きに至るケースがあります。高速設備への適用前は必ず条件確認を行ってください。
判断基準③:温度条件で選ぶ
使用温度は潤滑剤の種類選定において非常に重要な要素です。グリースには使用可能温度範囲が定められており、その範囲を外れると増ちょう剤が分解・軟化し、潤滑性能が大幅に低下します。
温度条件別の推奨潤滑剤
| 温度条件 |
推奨潤滑剤 |
選定のポイント |
| 低温(-20℃以下) |
低温対応グリースまたは低粘度合成油 |
低温流動性を確認する |
| 常温〜80℃程度 |
一般グリースまたは鉱物油 |
標準的な条件。最も選択肢が広い |
| 80〜150℃ |
高温対応グリースまたは合成油(PAO/エステル系) |
耐熱性・酸化安定性を重視 |
| 150℃超 |
耐熱グリース(フッ素系)またはシリコン油 |
専門品が必要。個別相談推奨 |
判断基準④:水・異物・環境条件で選ぶ
屋外設備・食品工場・港湾・製鉄所など、水やほこり・スケールが多い環境では、グリースの「封止(シール)効果」が重要な役割を果たします。グリースが軸受のシール代わりになり、外部からの汚染を防ぎます。
耐水性が求められる場合は、リチウム系やポリウレア系(urea系)の増ちょう剤が一般的に使われます。食品工場では食品機械用(NSF H1規格)の潤滑剤を選ぶ必要があります。
耐水性グリースが特に効果的なケース
製紙機械・洗浄ライン・屋外コンベアなど、常時水や蒸気にさらされる設備では、耐水性に優れたグリースへの切り替えで漏れや軸受損傷が改善するケースが多くあります。
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判断基準⑤:グリースの増ちょう剤の種類を確認する(切り替え時の注意)
グリースを別の製品に変更する場合、増ちょう剤の種類(リチウム系・カルシウム系・ポリウレア系など)が異なると、混合による品質低下が起こるケースがあります。
注意:グリースの混合には注意が必要
異なる増ちょう剤のグリースを混合すると、急激な軟化や分離が起こるケースがあります。グリースを切り替える際は、既存グリースを除去してから補給することをお勧めします。
また、グリースと潤滑油を同一部位に混用することも避けてください。グリースが油に溶け出して潤滑油が汚染されるほか、グリースの保持力が失われる可能性があります。
合成油(PAO系・エステル系)への切り替えが効果的なケース
省エネ・長寿命化を目的として、鉱物油から合成油ベースの潤滑剤に切り替えることで、油膜保持力の向上や補給間隔の延長が実現できるケースがあります。特に高温・高速・高負荷の条件下で効果が出やすい傾向があります。
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よくある質問(FAQ)
グリースとオイル、どちらが長持ちしますか?
一概にどちらが長持ちとは言えません。グリースは密封性が高く補給頻度が少なくて済む反面、高温・高速条件では早期に劣化します。潤滑油は循環式であれば常に新鮮な油が供給されますが、定期的な油の交換・分析管理が必要です。設備条件と運用方法によって寿命は大きく変わるため、使用環境に合った選定が最も重要です。
グリースを補給しすぎると問題がありますか?
はい、過給脂(グリースの入れすぎ)は軸受の発熱・漏れ・損傷の原因になります。軸受内部でグリースがかき回されることで熱が発生し、シールの損傷や潤滑剤の劣化につながります。補給量は設備メーカーの指定量または計算式(0.005×D×B gなど)を参考に、適量を守ることが大切です。
食品工場の設備に使えるグリースはありますか?
はい、食品機械用の潤滑剤として「NSF H1規格」を取得した製品があります。食品や飲料に偶発的に接触しても安全とされる成分で作られており、食品衛生法・HACCPに対応した管理が求められる現場で使用されています。一般工業用グリースとは別に管理する必要があるため、専門家への相談をお勧めします。
グリースを使っている箇所を潤滑油に変更できますか?
設備の構造によっては変更可能ですが、密封機構・給油方式・排油経路の確認が必要です。グリース封入型のシールド軸受(ZZ型・2RS型など)は、構造上オイル循環には対応していないことが多いため、軸受の種類と設備仕様を確認したうえで判断することをお勧めします。
軸受のグリースが黒くなっていました。交換が必要ですか?
グリースが黒色に変色している場合、主な原因として金属摩耗粉の混入・過度な酸化・異物汚染が考えられます。変色したグリースをそのまま使い続けると軸受損傷が進行するリスクがあるため、早めの除去と補給が推奨されます。併せてオイル分析(グリース分析)を行うと、劣化の程度や原因を特定しやすくなります。
まとめ
グリースとオイルの使い分けは、設備の回転数・温度・環境・メーカー指定の4点を軸に判断することが基本です。以下に要点を整理します。
- グリースは保持力・防水性に優れ、密封が難しい軸受や屋外設備に向く。潤滑油は冷却・洗浄効果が高く、高速・高温・高負荷の設備に適する。
- 使い分けの第一優先はメーカー指定。仕様書に指定がない場合はdn値・温度・環境条件から総合的に判断する。
- グリースを切り替える際は、増ちょう剤の種類が異なると混合による品質低下が起こるケースがあるため、既存グリースを除去してから補給することをお勧めする。
- 食品工場や特殊環境ではNSF H1規格など用途専用の潤滑剤を選ぶ必要がある。
- グリースの変色・異臭・硬化などの異常は劣化のサイン。早めの交換とオイル分析による原因特定を推奨する。
グリースとオイル、設備に適した選定ができていますか?
回転数・温度・環境条件をうかがい、グリースとオイルどちらが適切かを潤滑の専門商社がご提案します。選定ミスによる軸受損傷や漏れを防ぐ、確かな判断材料になります。
\ 潤滑ひと筋60年超・累計1,000設備超の実績 /
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この記事を書いた人
郁(フミ)
近畿インペリアル 営業部 主任
工業用潤滑剤の専門商社に5年間勤務。適油選定・オイル分析サポートから現場での更油作業まで自ら担当し、鉄鋼・食品・プラントなど多業種の設備保全を支援。営業担当としてお客様と現場に向き合い続けた実体験をもとに、「現場の担当者が本当に知りたいこと」を軸に記事を執筆しています。