NSF H1グレード潤滑油の選び方5つの基準
H1グレードと一口に言っても、製品の種類は多岐にわたります。自社設備に合った1本を選ぶための5つのステップを解説します。
ステップ①:NSFカテゴリ(H1・H2・3H)を正しく理解する
NSF登録潤滑剤は、用途別に複数のカテゴリに分かれています。混同しやすい3つの規格の違いを整理しました。
NSF H1・H2・3Hの規格別の用途と接触条件
規格 用途 食品との接触 主な使用箇所
NSF H1 食品機械用潤滑剤 偶発的な接触が許容される(10ppm以下) ベアリング、ギア、チェーン、油圧、コンプレッサーなど
NSF H2 食品と接触しない箇所用の潤滑剤 接触は認められない 食品と完全に隔離された機械部位
NSF 3H 離型剤・直接接触用 直接接触が認められる ベーキングパン、調理容器、まな板など
注意:H2はH1の代替にならない
H2は「食品と接触しない箇所」が前提です。食品と接触する可能性がある生産ラインで使用することはできません。サプライヤーがH2認証のみを提示している場合、その製品を食品接触箇所に使うことはできない点に注意が必要です。
ステップ②:設備の運転条件に合った粘度・性能を選ぶ
食品機械用とはいえ、潤滑油としての基本性能は妥協できません。設備の運転条件に応じて、以下の項目を確認します。
ISO VG(粘度グレード)が設備メーカーの推奨と合っているか
使用温度範囲(低温始動性・高温耐久性)が現場環境に適合するか
耐水性・耐スチーム性が必要な箇所か(殺菌洗浄が多い食品工場では重要)
極圧性・耐摩耗性が要求される機械か(ギアボックスやコンベアなど)
ステップ③:ISO 21469認証の有無を確認する
NSF H1は配合内容のみを審査する「登録」制度です。一方、ISO 21469は原材料調達・製造・出荷・運搬の各工程に対して厳しい管理基準を設けた「認証」制度です。より高い安全性を求める場合は、NSF H1登録に加えてISO 21469認証を取得している製品を選ぶと安心です。
ISO 21469認証品が特に効果的なケース
輸出向け食品工場、大手食品メーカーの監査対応、FSSC22000の認証取得を目指す工場、海外取引先からの要求が厳しい現場では、NSF H1登録に加えISO 21469認証を取得した製品の採用が推奨されます。
ステップ④:合成油か鉱物油かを使用環境で見極める
H1グレードの潤滑油にも、ベースオイルの違いによって特性が異なります。多くの現場で採用が進んでいる合成油と、コスト面で選バれる鉱物油(ホワイトオイル系)を比較します。
H1グレード潤滑油のベースオイル別比較
項目 合成油タイプ 鉱物油(ホワイトオイル)タイプ
耐熱性 高い(高温機械に対応) 標準
低温始動性 優れる 標準
酸化安定性 長寿命 標準
初期コスト 高め 低い
更油サイクル 長い(トータルコスト低減) 短め
過酷な温度条件や長期間の更油間隔を狙う場合は合成油タイプが有利です。標準的な運転条件であれば鉱物油タイプでも十分な性能を発揮します。
ステップ⑤:グリースは増ちょう剤の種類まで確認する
H1グレードのグリースを選ぶ際は、ベースオイルだけでなく増ちょう剤の種類にも注意が必要です。アルミニウムコンプレックス、リチウムコンプレックスなど、増ちょう剤によって耐水性・耐熱性・耐荷重性が大きく異なります。
注意:グリースの混合には注意が必要
異なる増ちょう剤のグリースを混合すると、急激な軟化や分離が起こるケースがあります。グリースを切り替える際は、既存グリースを除去してから補給することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
NSF H1の潤滑油は本当に食べても安全ですか?
「食べても安全」という表現は正確ではありません。NSF H1は「食品との偶発的な接触が許容される」潤滑剤であり、混入許容濃度は10ppm以下とされています。意図的な摂取を前提とした製品ではないため、あくまでも万が一の混入時のリスクを最小化するためのものとご理解ください。
食品工場のすべての設備をH1グレードに切り替える必要がありますか?
必ずしもすべてを切り替える必要はありません。食品との接触可能性がある箇所はH1グレード、完全に隔離された箇所はH2でも問題ないとされています。ただし、HACCPの考え方では、食品との接触リスクを完全に排除できない箇所はH1を選ぶのが安全です。設備配置や生産ラインの状況に応じて、専門家と相談しながら判断するのが現実的です。
H1グレードに切り替えるとコストは上がりますか?
単価ベースでは一般工業用潤滑油より高くなる傾向があります。ただし、合成油タイプのH1グレードは更油サイクルが長いため、トータルコストで見ると一般油と同等以下になるケースもあります。導入時には初期コストだけでなく、ライフサイクルコスト全体での比較検討が重要です。
H1グレードの潤滑剤を使えば、HACCP認証が取れますか?
H1グレードの使用はHACCPやFSSC22000で求められる衛生管理項目の一部に対応するものであり、それだけで認証が取得できるわけではありません。原料管理、製造工程管理、従業員衛生など総合的な対応が必要です。潤滑剤の選定は、認証取得に向けた重要なピースの一つと位置づけられます。
既存の工業用潤滑油からH1グレードへの切り替え時に注意することは?
既存油と新規H1グレード油の相溶性を確認することが重要です。異なる種類のベースオイルや添加剤同士は相性が悪い場合があり、フラッシング(洗浄油での内部洗浄)が必要になるケースもあります。また、グリースの切り替え時は、既存グリースを除去してから補給することをお勧めします。事前に潤滑剤メーカーや専門商社へ相談することで、トラブルを未然に防げます。
この記事を書いた人
郁(フミ)
近畿インペリアル 営業部 主任
工業用潤滑剤の専門商社に5年間勤務。適油選定・オイル分析サポートから現場での更油作業まで自ら担当し、鉄鋼・食品・プラントなど多業種の設備保全を支援。営業担当としてお客様と現場に向き合い続けた実体験をもとに、「現場の担当者が本当に知りたいこと」を軸に記事を執筆しています。