TOPkeyboard_arrow_right潤滑コラム一覧keyboard_arrow_right

食品工場の潤滑剤選定|HACCP対応とH1グレードの実践ガイド

潤滑コラム

食品工場の潤滑剤選定|HACCP対応とH1グレードの実践ガイド

公開日:2026/6/18

更新日:2026/7/1

食品工場の潤滑剤選定で基準となるNSF H1グレードとHACCPの考え方を、選び方から運用管理まで実務目線で整理します。

食品工場の潤滑剤選定|HACCP対応とH1グレードの実践ガイド

食品工場の潤滑剤選定では、機械を安定して動かすことに加えて「万一の異物混入を防ぐ」視点が欠かせません。グリースやチェーン油がコンベアやシール部から食品に触れる可能性はゼロではなく、一般工業用の潤滑剤をそのまま使っていると、HACCPの管理上も見過ごせないリスクになります。この記事では、選定の基準となるNSF H1グレードとHACCPの考え方を、接触リスクの区分・認証の見方・現場での識別と運用管理まで、実務に沿って整理します。

食品工場で潤滑剤選定が「リスク管理」になる理由

食品工場の潤滑剤選定が一般の工場と大きく違うのは、潤滑剤そのものが食品安全のハザードになり得る点です。コンベアチェーン、充填機、ミキサー、シール部など、食品に近い位置で多くの潤滑剤が使われており、機械的な要求性能とあわせて「食品に触れても問題ない設計か」を同時に満たす必要があります。

潤滑剤がHACCPの管理対象になる理由

HACCPでは、原材料の受け入れから出荷までの工程で発生し得る危害要因を洗い出し、重要管理点を継続的に監視します。潤滑剤はこのうち化学的ハザードに該当し、給脂部やシールの摩耗、オイルミスト、結露を伝った滴下などを通じて、ごく微量でも製品へ移行する可能性があります。「絶対に触れない」と言い切れない以上、偶発的接触を前提に油種を管理することが、HACCPの考え方と整合します。

注意:一般工業用油の偶発的接触リスク

一般的な工業用潤滑剤には、食品への移行を想定していない添加剤が含まれることがあります。シール部からのにじみやチェーンからの飛散で製品に混入すれば、回収やライン停止につながる重大なクレームに発展しかねません。接触可能性のある箇所では、性能だけでなく「食品に触れても基準を満たすか」を選定条件に含める必要があります。

NSF登録区分(H1・H2・H3・3H)の理解不足

COLUMN | あわせて読みたい 食品機械用潤滑油「H1グレード」とは?NSF認証品の選定ガイド H1・H2・3Hの違いから、粘度・ISO 21469・基油まで踏み込んだ選定5基準を解説。区分の取り違えを防ぎたい方へ。 詳しく読む →

食品機械用潤滑剤は、米国のNSFインターナショナルが登録する区分で整理されています。代表的なのがH1(偶発的に食品へ接触する可能性がある箇所用)で、これがいわゆる「H1グレード」です。区分を取り違えると、本来H1が必要な箇所にH2を使ってしまうといった選定ミスが起こります。

NSF登録区分の概要
区分想定する接触主な用途例
H1食品への偶発的接触の可能性ありコンベア、充填機、シール部など食品近接部
H2食品への接触の可能性なし食品と隔離された駆動部・油圧装置
H3可食性の離型・防錆油フック・トロリーの防錆、洗浄
3H直接接触する離型剤グリル・天板などへの離型

このうち食品近接部の中心となるのがH1グレードです。H1は米国FDAの21 CFR 178.3570に適合した成分で構成され、偶発的な接触をごく微量に限る前提で許可されています。「食べてよい油」ではなく、「万一触れても安全側に管理できる油」と理解するのが正確です。

一般工業用油との混在・取り違え

同じ工場内でH1とH2が混在する現場では、容器の見た目が似ているために取り違えが起こりがちです。給脂用のグリースガンやオイラーを共用していると、H2の油がH1ラインに持ち込まれ、せっかくの区分管理が崩れてしまいます。

識別・保管・記録の不備

どの設備にどの油種を使うかが標準化されていない、容器に油種表示がない、補給の記録が残っていない——こうした運用面の抜けは、監査時に「潤滑剤が管理されていない」と判断される原因になります。選定と同じくらい、運用の仕組みづくりが重要です。

食品工場の潤滑剤選定を進める実践ステップ

ここからは、食品工場の潤滑剤選定を現場で進めるための手順を、4つのステップに分けて整理します。認証された油を選ぶだけでなく、ゾーニングと運用管理までを一連の流れとして設計することがポイントです。

ステップ1|接触リスクでゾーニングし、H1とH2を使い分ける

まずは設備を「食品に偶発的に触れる可能性がある箇所」と「食品と隔離されている箇所」に分けて棚卸しします。前者にはH1グレード、後者にはH2を割り当てるのが基本です。すべてをH1に統一する考え方もありますが、コストや性能要件を踏まえ、リスクに応じて使い分けるのが現実的です。

ポイント:迷ったらH1側に倒す

接触の可能性を判断しきれない箇所は、安全側であるH1を選ぶのが無難です。シールの経年劣化やメンテナンス時の飛散など、設計上は隔離されていても実運用で接触し得るケースがあるためです。

ステップ2|NSF H1登録とISO 21469認証を確認する

候補となる製品がNSF H1に登録されているかを、製品名やNSF登録番号で確認します。さらに、製造から使用までの衛生管理まで踏み込んで評価したい場合は、ISO 21469認証の有無も判断材料になります。ISO 21469は、潤滑剤の配合・製造・包装・使用に関する衛生要求を定めた国際規格で、工場監査を伴う点がNSF登録との違いです。

ステップ3|基油・増ちょう剤の特性を理解して選ぶ

H1グレードといっても性能は一律ではありません。基油には主にホワイトオイル系合成(PAO)系があり、使用温度域や酸化安定性が異なります。グリースでは増ちょう剤にアルミニウムコンプレックスなどが使われ、耐水性や耐熱性に差が出ます。

H1潤滑剤の基油タイプ比較
項目ホワイトオイル(鉱物油)系合成(PAO)系
コスト比較的安価やや高め
高温安定性標準的優れる
低温流動性標準的優れる
向く用途常温〜中温の一般的な機械高温・低温・長寿命を求める設備

どちらが優れているということではなく、使用条件に合わせて選ぶのが基本です。高温のオーブン周辺や低温の冷凍ライン、長期間の更油間隔を狙う設備では合成系が有利になりやすく、常温域の一般的な機械では白油系で十分なことも多くあります。

有効なケース:アレルゲン・認証要件の確認

輸出対応や宗教対応が必要な工場では、アレルゲンフリーやハラル・コーシャ認証の有無も選定条件になります。製品の安全データシートやメーカーの証明書で、含有成分と取得認証を事前に確認しておくと、後工程での手戻りを防げます。

CASE STUDY | 関連する導入事例 食品機械のベアリング摩耗を持続する油膜で改善|給油周期を延長可能に 同じH1認証品でも油種選定で結果は変わる。食品機械の小型ベアリング摩耗を「長持ちする油膜」の選定で解消し、給油周期を延長できた実例です。 事例を読む →

ステップ4|識別・専用器具・記録で運用を仕組み化する

選定した油を正しく使い続けるために、容器や給脂器具を色分けして識別し、H1とH2で器具を分けます。設備ごとの油種を一覧化し、補給日・補給量・担当者を記録に残すことで、監査対応と傾向管理の両方に活かせます。グリースを切り替える際は、既存グリースを除去してから新しいグリースを補給すると、増ちょう剤の違いによる軟化や離油を避けやすくなります。

ポイント:油種選定と運用設計はセットで考える

近畿インペリアルでは創業60年以上・累計約1,000設備以上の導入支援を通じて、食品工場の適油選定から識別・記録の仕組みづくりまでを一体で整える重要性を実感しています。油を選ぶだけで終わらせず、運用まで設計することが、結果的に最も確実なリスク低減につながります。

よくある質問

H1グレードとH2グレードはどう違いますか?
H1は食品に偶発的に触れる可能性がある箇所向けで、FDAの21 CFR 178.3570に適合した成分で構成されます。H2は食品と接触しないことが前提の箇所向けです。接触可能性で使い分けるのが基本で、判断に迷う箇所は安全側のH1を選ぶ運用が一般的です。
H1グレードは一般の潤滑剤より性能が劣りますか?
一概には言えません。かつては性能差が指摘された時期もありましたが、近年は合成基油のH1製品も増え、高温安定性や寿命の面で一般工業用油と遜色ない製品もあります。使用条件に合った製品を選べば、性能を妥協せずに食品安全要件を満たせます。
NSF H1登録とISO 21469認証は何が違いますか?
NSF H1登録は主に「成分(配合)」が基準に適合しているかを確認するものです。ISO 21469は配合に加えて製造・包装・使用までの衛生管理を対象とし、工場監査を伴います。より踏み込んだ衛生保証を求める場合の判断材料になります。
一般工業用油からH1グレードへ切り替える際の注意点は?
まず接触リスクで対象箇所を棚卸しし、優先度の高い箇所から切り替えます。グリースは増ちょう剤が異なると軟化や離油が起こることがあるため、既存グリースを除去してから新しいグリースを補給することをお勧めします。切り替え後は油種表示と記録を整えると管理が安定します。
H1グレードを使えばHACCPの潤滑剤管理は完了しますか?
H1の採用は重要な一歩ですが、それだけでは不十分です。ゾーニング、識別、専用器具、補給記録といった運用面までを含めて初めて、監査でも説明できる管理体制になります。

まとめ

  1. 食品工場の潤滑剤は食品安全のハザードになり得るため、性能と「偶発的接触への適合」を同時に満たす選定が必要です。
  2. 食品近接部の基準はNSF H1グレード(FDA 21 CFR 178.3570適合)。区分(H1/H2/H3/3H)を取り違えないことが前提になります。
  3. 実務は「接触リスクでゾーニング→NSF H1・ISO 21469を確認→基油・増ちょう剤を条件で選ぶ→識別と記録で運用」の流れで進めます。
  4. 白油系と合成系は優劣ではなく使用条件で選びます。輸出・宗教対応ではアレルゲンや認証要件も確認します。
  5. H1の採用に加え、識別・専用器具・記録までを仕組み化して初めて、HACCP監査に耐える管理体制になります。
食品機械用(H1)潤滑ガイドブック(無料) 食品機械用潤滑剤(H1)に関するお悩みはありませんか? 本記事のようなH1グレードの選定・ゾーニング・運用管理のお悩みも、メーカーに縛られない独立した立場で、設備環境に合わせた適油選定をご提案します。見積もり・トラブル相談まで、1営業日以内に専門スタッフが対応します。 食品機械用潤滑剤(H1)について相談する →
郁(フミ)
この記事を書いた人
郁(フミ)
近畿インペリアル 営業部 主任

工業用潤滑剤の専門商社に5年間勤務。適油選定・オイル分析サポートから現場での更油作業まで自ら担当し、鉄鋼・食品・プラントなど多業種の設備保全を支援。営業担当としてお客様と現場に向き合い続けた実体験をもとに、「現場の担当者が本当に知りたいこと」を軸に記事を執筆しています。

無料で相談可能です

見積もり、潤滑剤の選定、トラブルのご相談など、専門スタッフが対応します。お気軽にお問い合わせください。

今すぐお問い合せ

1営業日以内に担当者がお応えします。

設備や使用環境に応じた潤滑ノウハウを基礎から解説!

潤滑ガイドブック