鉱物油・PAO・エステル・PAGを徹底比較
ここからは、現場で出会う代表的な4種の基油を、それぞれの長所と弱点に踏み込んで比較します。「より優れた基油」を探すのではなく、運転条件に合うかどうかという視点で読み進めると選定に役立ちます。
①鉱物油(グループI〜III):汎用性とコストの基準
原油を精製して得られる鉱物油は、最も広く使われている基油です。コスト性・入手性に優れ、添加剤溶解性が高く、シール材との相性も良好という扱いやすさが強みです。グループIからIIIへ精製度が上がるほどVIや酸化安定性が向上し、グループIIIは合成油に迫る性能を持ちます。一方で、極端な低温・高温の幅広い温度域では合成油に一歩譲る場面があります。常温〜中温域の一般設備では、まず鉱物油が基準の選択肢になります。
②PAO(合成炭化水素・グループIV):広い温度域に強い
PAO(ポリアルファオレフィン)は、最も代表的な合成基油です。高い粘度指数と低い流動点を持ち、低温始動性と高温安定性を両立します。蒸発損失が少なく、酸化・熱安定性にも優れるため、長寿命や厳しい温度環境が求められる設備に向きます。
弱点は、添加剤溶解性が低いことと、シール材を収縮させやすいことです。このためPAOを基油とする製品では、エステルを数%〜配合して添加剤溶解性とシール適合性を補うのが一般的です。鉱物油とは相溶するため、切り替えのハードルは比較的低めです。
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③エステル(グループV):潤滑性と環境性に優れる極性油
エステルは分子が極性を持つため金属表面に吸着しやすく、高い潤滑性を発揮します。ポリオールエステル(POE)などは熱安定性に優れ、低温性・添加剤溶解性も良好です。生分解性に優れたグレードもあり、環境配慮が求められる用途でも使われます。冷凍機油(HFC冷媒用)や航空機エンジン油など、過酷な条件での実績が豊富です。
注意点は、水分と熱が共存する条件での加水分解(分解して酸を生じる)の懸念と、シールや塗料への影響です。シール材を膨潤させる傾向があるため、材質の適合確認が欠かせません。コストは鉱物油より高めです。
④PAG(ポリアルキレングリコール・グループV):低摩擦だが非相溶
PAG(ポリアルキレングリコール、ポリグリコール)は、高いVIと優れた低温性に加え、摺動面での摩擦係数が低いのが特徴です。高温でもスラッジになりにくくクリーンに分解する性質から、コンプレッサー油やウォームギヤ油、難燃性作動油などに採用されます。水溶性のタイプと油溶性のタイプがあり、用途で使い分けられます。
最大の注意点は、鉱物油やPAOと相溶しないことです。混入すると分離やゲル化を起こし、潤滑不良につながるおそれがあります。また一部の塗料・シール・金属(アルミ系など)を侵すことがあるため、系統全体の適合確認が前提になります。
⑤4種の基油 早見比較と選定の考え方
ここまでの特性を一覧にまとめます。◎○△は相対的な目安で、実際の値は製品ごとの規定値で確認してください。
主要4基油の特性比較(◎○△は相対的な目安)
| 項目 | 鉱物油 | PAO | エステル | PAG |
| 粘度指数(VI)の目安 | 中(約95〜120) | 高(約130〜150) | 高 | 高 |
| 低温流動性 | △〜○ | ◎ | ○〜◎ | ◎ |
| 酸化・熱安定性 | ○(精製度による) | ◎ | ◎ | ◎ |
| 添加剤溶解性 | ◎ | △(要エステル配合) | ◎ | ○ |
| シール適合性 | ○ | 収縮傾向(要配合) | 膨潤傾向 | 材質確認が必要 |
| 鉱物油との相溶性 | ― | 相溶 | 相溶 | 非相溶 |
| コスト目安 | 低 | 中〜高 | 高 | 高 |
| 代表用途 | 汎用全般 | 高温・低温・長寿命 | 冷凍機・高温・環境対応 | コンプレッサー・ウォームギヤ |
選定では、運転温度範囲・荷重・回転数といった条件に加え、既存油との相溶性とシール材の適合を必ず照らし合わせます。特に基油系統を変える切り替え時は、思わぬトラブルの起点になりやすいポイントです。
注意:PAGは他の油と混ざらない
PAGは鉱物油やPAOと相溶しないため、混入すると分離やゲル化が起こり、油膜が形成されにくくなるケースがあります。PAG系へ切り替える、またはPAG系から他油へ戻す際は、既存油を抜き取り系統を十分に洗浄(フラッシング)してから充填することをお勧めします。配管やシール材の適合も事前に確認します。
ポイント:基油選びは「条件との照合」がすべて
近畿インペリアルでは創業60年以上・累計約1,000設備以上の適油選定に携わる中で、同じ用途でも温度・シール材・既存油の違いで最適な基油が変わる事例を数多く見てきました。カタログの一般論ではなく、自社設備の条件に一つずつ照らし合わせることが、過不足のない選定につながります。
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よくある質問(FAQ)
合成油は鉱物油より必ず優れているのですか?
一概には言えません。温度域や寿命を重視する条件では合成油が有利ですが、コスト・添加剤溶解性・入手性では鉱物油が優れる場面も多くあります。常温〜中温域の汎用設備では、鉱物油(特にグループII)が適切な選択肢になることも少なくありません。用途条件に合うかどうかで判断するのが基本です。
グループIIIの高度精製鉱物油を「合成油」と呼んでよいのですか?
市場では合成油として扱われることもありますが、厳密には鉱物由来の基油です。表示の扱いは地域や規格によって異なるため、名称だけで判断せず、必要に応じてメーカーに基油の種類を確認すると確実です。性能はグループI・IIの鉱物油より高く、PAOに近づくグレードもあります。
PAO油に少量のエステルが配合されているのはなぜですか?
PAOは添加剤溶解性が低く、シール材を収縮させやすい性質があるためです。エステルを数%〜配合することで添加剤を安定して溶かし込み、シールの収縮も抑えられます。PAOとエステルの組み合わせは、両者の長所を活かす一般的な設計です。
PAG油は他の基油の油と混ぜても大丈夫ですか?
PAGは鉱物油やPAOと相溶しないため、混合は避けるのが基本です。切り替える際は既存油を抜き取り、系統を十分にフラッシングしてから充填することをお勧めします。配管・シール・塗料などの適合も事前に確認すると、トラブルの予防につながります。
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まとめ
- 潤滑油の性能の土台は大半を占める基油が決め、鉱物油か合成油かで温度特性・寿命・相溶性が大きく変わる
- 鉱物油はコスト・添加剤溶解性・入手性に優れ汎用性が高く、グループI〜IIIで精製度と性能が異なる
- PAOは広い温度域と酸化安定性に優れるが、添加剤溶解性とシール収縮を補うためエステルを配合するのが一般的
- エステルは潤滑性・熱安定性・環境性に優れる一方、加水分解やシール適合に注意。PAGは低摩擦・高VIだが他油と非相溶で切替時はフラッシングが必要
- 「より良い基油」を探すのではなく、運転温度・荷重・シール材・既存油との相溶性に合わせた適油選定が重要
この記事を書いた人
郁(フミ)
近畿インペリアル 営業部 主任
工業用潤滑剤の専門商社に5年間勤務。適油選定・オイル分析サポートから現場での更油作業まで自ら担当し、鉄鋼・食品・プラントなど多業種の設備保全を支援。営業担当としてお客様と現場に向き合い続けた実体験をもとに、「現場の担当者が本当に知りたいこと」を軸に記事を執筆しています。